FAQ 001:水孔石(天城抗火石)との違いについて
時折、静岡県の天城山で産する水孔石(天城抗火石)と新島の抗火石の違いについてご質問頂きますのでご説明いたします。まずは見た目の一例と特徴の比較
上記写真は石例の一つです。地中深くで出来る御影石などの深成岩は比較的に均質ですが、地表部でマグマが急冷してできる抗火石などの火山岩は、一見すると同じ石とは思えないほどに外見や質に大きなばらつきが見られがちです。それら全てを写真で比較をすることは難しいので、上記の例のみを掲載しました。
新島の抗火石と水孔石(天城抗火石)は、抗火石に触れる機会が多い方でない限り、見分けがつかないことが多いです。石の組成成分も非常に似通っています。
新島の抗火石と天城の抗火石はどちらが本物か?」というご質問を頂いたことがございます。詳しい説明は下記にいたしますが、弊社の考える結論としまして、石の組成と特徴から抗火石に該当するかしないかと考えましたら、『抗火石』という名称の発祥となった新島産はもちろん、天城の水孔石(天城抗火石)も抗火石の区分に入る石ではあると考えます。本物か否かではなく、抗火石という区分に該当するかしないかです。
石の呼び名は話の内容により変わります。学術名であってもその境界が曖昧であったり内容により呼び方が変わることのあるものであることを念頭に置いてください。石の学術名称は石の組成や構造などで区分した呼び名がついていますので、肉眼での見た目が全く違っていても同じ名前の物が多々あります。
たとえば商業的に通る石の名で、関東の墓石の最高級品である緻密で硬い本小松石、そして本小松石の取れる山の表層で採れる軽く多孔質な赤ボサ石、そしてその近くで採られる板状の根府川石、長野県の名石、諏訪鉄平石、これらは見た目は全く異なりますが、学術的にはどれも同じく複輝石安山岩と呼ばれます。建築や製造の場で実際に石を使う上でこれでは区別がつかず困るわけです。そこでそれぞれ上記のような産地、外見や石質的特徴から各石の名前がつき、分かりやすくなっています。
一方、「この山の質はどのようなものですか?」といった地質的な話になりますと、「この山には本小松石と新小松石と軽石と根府川石と赤ボサ石、箱根溶岩、真鶴ゴロタがありますね。」ではその個々の石を知らない人にはピンときません。そこで「この山は安山岩質の山ですよ。」などと話します。石屋同士でしたり地質に詳しい人であれば、安山岩質といわれた時に、深い所の安山岩と表層の安山岩がすぐに思い浮かびます。大枠の特徴がつかめるわけですね。
そこで抗火石の場合はといいますと、抗火石は学術的には浮岩(pumice)もしくは黒雲母流紋岩(Biotite rhyolite)と呼ばれます。かつては石英粗面岩(liparite)とされていた時代もありましたが現在は上述のように分類されています。天城抗火石も流紋岩の一種のようです。
では抗火石という呼び名は何かといいますと、これは島内で『かうが(剛化、コーガ)石』などと呼ばれていた新島の軽石を、その性質から東京帝国大学(現在の東大)の渡辺博士が大正元年に命名された呼び名です。渡辺博士は大正元年の論文、『抗火石について』のなかで抗火石を次のように定義されています。『抗火石の新名称は独り海綿状の浮石を言うのみならず、堅質花崗岩様の溶岩と雖も気泡を有する玻璃(ガラス)質の石英粗面岩をも亦併せて総称することとなせり。』
その後新島の採石業者である抗火石工業㈱が『抗火石』の商標登録をとり、全国に販売するようになりました。その為にかつて新島に数社存在した抗火石の販売元は『抗火石』という名称を使用できず、『コーガ石』や『新島長石』、『新島石』、『ネオエックス(新島物産の抗火石建材の登録商標)』などの名称で抗火石を販売しておりました。現在は抗火石工業を合併した弊社がこの黒雲母流紋岩を『抗火石』として販売いたしております。前述の抗火石の定義から考えますと、天城の水孔石も玻璃質で、気泡を含む、かつて言うところの石英粗面岩(今は流紋岩)ですから抗火石の定義に該当する石材であります。
FAQ 002:抗火石で除染はできますか?
新島の抗火石はSiO2が70%以上、アルミナ10%以上の岩石の為、セシウムをイオン交換で吸着するゼオライト鉱物を大なり小なり含む可能性は否定できません。しかし新島ではその分析を行っておりませんので、セシウムの吸着の可否については不明です。
また、仮に抗火石にゼオライト鉱物が多く含まれていたとしましても、ゼオライトはセシウムなどの吸着はしても分解や無害化をするものではありません。土壌除染のような汚染土を撤去するのが前提の場所に、セシウムやカリウムを吸着するだけの石や砂利をまくことは、被汚染物質の物量を増やすのみで、現実的には使えないものと思われます。
一方、汚染水のセシウム除去でしたら、よりゼオライト鉱物を多く含む石の利用が的確と考えます。
FAQ 003:抗火石で調湿はできますか?
抗火石は比較的に吸水率の高い石材ですので、ある程度の調湿効果はありますが、空間に対してご使用頂く石の量は、多くの場合微々たるものであるため、目に見えるレベルでの効果は期待できません。
一方、抗火石は吸水性の高さと断熱性能の高さから、結露しやすい地下室の壁面などにご使用いただきますと非常に効力を発揮いたします。
FAQ 004:抗火石に消臭・防虫・防カビ・殺菌効果はありますか?
抗火石はガラス成分が70%以上の自然石です。軽く加工がしやすく断熱性が高いなどの目立った特徴はありますが、普通の自然の石以外の何物でもありません。ガラスに消臭や防虫、防カビ効果が無いように、抗火石にも消臭・防虫・防カビ・殺菌などの効果は認められていません。弊社が昭和32年より抗火石を扱って以来、その確証となるような見聞もございません。
FAQ 005:抗火石のろ過能力はどの程度ですか?
抗火石自体は通常の岩石であるために浄化能力や汚れの分解能力はありませんが、非常に多孔質な石材の為、有害物質を分解するバクテリアの極めて有効な住処になります。弊社でも展示用観賞魚水槽に抗火石をろ過材として数年間使用しておりますが、バクテリアが十分に繁殖し、非常に高い濾過能力を発揮しております。濾材が目詰まりしないように定期的に清掃して頂ければ繰り返し長くお使い頂けます。
FAQ 006:水に浮く抗火石が欲しいのですが?
水に浮く抗火石を流通にのせることは困難になっております。理由として、岩石の山はたいてい浅いところに比較的に軽い石があり、深く掘っていくほど緻密に締まった石となり、硬く重くなっていきますので、すでに100年以上の採掘の歴史のある抗火石採掘場では浅く軽かった層は基本的には掘りつくされているためです。
また、軽い抗火石は強度が無く、かつては浴室の断熱保温材として軽い抗火石も大量の需要がございましたが、現在の抗火石の主要な用途である建材やプラント資材としての利用には耐えません。それゆえあまり使途のない軽量な抗火石の採掘事業の成立は困難であり、流通にのせられない理由の一つとなっております。
一方、抗火石採掘の長い歴史の中で、製材・加工の出来るレベルの大きさに達しない石は、基本的には山に残されてきました。その為、小片であれば島内には水に浮く抗火石は多々あります。しかしそれのみを集めるには見た目で浮くものとわかるレベルの職人が専属で散在する石を拾い集めねばならず、熟練した職人に非常に手間と時間がかかる作業を強いることとなり、その結果ただの未加工の石の価格としては非現実的に高価な価格設定をせざるを得なくなってしまいます。その為に通常は『浮くような石は現在ございません。』といった回答をさせて頂く状況になっております。ご了承ください。
FAQ 007:15cm以下の小さな抗火石だけが欲しいのですが?
ろ過材やお庭や外構でのご利用目的で、小さな抗火石をご要望頂くことがございます。しかしながら新島の抗火石採掘は現在、大きな岩盤からプラント資材や建材を切り出しやすい大型の抗火石の採掘を主たる目的としているため、小さな抗火石はほとんど出ず、集めることが困難です。その為、単発での少量のご希望は別といたしまして、小型の抗火石の販売は非常にコストと納期がかかり、本来の業務にも支障もきたすため、辞退させていただくことがございます。予めご了承下さい。
参考まで、下の採石風景をご覧ください。
上記写真の重機のタイヤの直径は約1.5mあります。採石中に出る大小の抗火石は、ほとんど20cm程度以上から1m前後のものが主体です。プラント・建材用の石は2m四方を超えるような大型のものを狙って岩盤から落とし、工場の石材チェーンソーで切れる大きさ、形状に大割してから工場に持ち帰ります。写真中の脇にあるような石はすべて加工するには小さすぎ、造園用に利用されます。
このような大型の石が採れる軽量火山岩の山は世界でも極めて稀で、これが新島の抗火石の何よりの特徴であります。その為、小型のものは新島では不得手となっております。(2013.8.13)
FAQ 008:抗火石はどう読むのですか?
『抗火石』と書いた場合はコウカセキと読んでおります。抗火石という名称は大正元年に東京帝国大学工科学長の渡辺博士が定義した名称で、後から作られた呼び名です。それまでは特定の漢字はあてがわれていず、浮石・剛化石などと書かれた文書が見受けられたそうです。一方、この新島の軽石が『抗火石』と新しく命名されるまでの島での昔から呼び方は、ko-ga seki(もしくはishi)と濁ったものでした。その為、口頭ではコウカセキと言われたりコウガセキ(イシ)、コーガセキ(イシ)と呼ばれます。